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京都地方裁判所 昭和38年(ヨ)316号 判決 1964年3月13日

申請人 佐藤勝夫 外八名

被申請人 第一工業製薬労働組合 外一名

主文

被申請人組合が昭和三八年八月一三日から一五日までの間第一工業製薬株式会社外七カ所に於いて実施した全員投票による被申請人組合の解散の効力を停止する。

被申請人浜村保は右全員投票による解散につきその執行をしてはならない。

訴訟費用は被申請人等の平等負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の仮処分の裁判を求め、

その請求の原因として、

「第一 被申請人組合は、同組合組合規約(以下規約と略称する)第五四条に基き、昭和三八年八月一三日から三日間第一工業製薬株式会社本社外七カ所において同組合の解散に関し全員投票を実施し同投票による解散決議をしたが、該決議は無効である。

一、本件解散までの経過

1  第一工業製薬株式会社(以下会社と略称する)は、京都市下京区西七条東久保町五五に本社を置き、京都、四日市、東京、大潟(新潟県)に工場を、大阪、東京、名古屋に営業所を有する家庭用、工業用洗剤及び活性剤の製造販売を業とする株式会社(昭和三八年八月現在従業員一二〇〇余名)であり、被申請人組合は、会社従業員をもつて構成され、総評化学産業労働組合同盟を上部団体とする労働組合(同月現在で組合員一一三三名)、被申請人浜村保は同組合の最高執行機関である中央執行委員会の委員長、申請人等はいずれも被申請人組合の組合員である。

2  被申請人組合は昭和二一年結成以来使用者からの影響を強く受け労働者の団結体としての純粋性独立性を欠いていたが、昭和三二年頃から組合自主化の方向を辿るようになりこれに対し会社の組合活動に対する介入が次第に露骨に行われるようになつてきた。このような状況の下に従業員数の最も多く且つ資本との矛盾も顕著に現われざるを得ない現業職場の京都工場の組合支部(以下京工支部と略称する)は、組合自主化のチャンピオンとして従前よりもなお一層活躍することとなつたのであるが、

(1)  会社は昭和三七年七月二二日の同年度組合中央執行委員選挙において自己と意を通じる者を同委員のうちに送り出すことに成功し、(被申請人浜村もその一員である)、こうして中央執行委員会は同年八月末に行われる同年度の運動方針を決定する第二〇回組合定期大会を前にしてその機関紙「つどいニュース」でその頃開かれた第八回原水禁世界大会に向け「あらゆる国の核実験に反対しよう」の声明を出したが、これに対し京工支部常任委員会は同支部発行の「ささやきニュース」で「すべての核保有国に無条件で核実験の停止協定を結ばせ、更に核兵器を完全になくすると共に、外国基地の撤去を要求することが大切である」旨の声明を出し、また第二〇回定期大会で、社会党一本支持を主方向とする中央執行委員会の運動方針案に対し京工支部は一党支持を大会で決めて組合員に押しつける誤りを指摘し、組合員大衆の政党支持の自由を保証すべき旨を提案するなどして、各問題に対する組合員のより深い認識を喚起するよう訴えた。

(2)  そして会社は(イ)昭和三七年一一月京都工場の合成洗剤包装職場である第四製造課に対し昼休憩交代勤務、残業等の労働強化を実施し、更に昭和三八年四月に至つて新製品ナンバーワンを売り出すためという名目で、一部中央執行委員と通じるなどして、右職場に対し五月のみ交代勤務(午前八時三〇分から午後四時三〇分までの勤務時間を、午前七時から午後三時までの分と午前一二時から午後八時までの分に分ける勤務)を要請して来たので、京工支部と右職場が十数回に亘つて討議の末、全体の統一を配慮しやむなく五月度だけ右申入に応じたところ、(ロ)会社は更にまた六、七月度にも右交代勤務を続けてほしい旨要請し、京工支部がこれを拒否すると、(ハ)会社は、六月中旬、二回に亘り協定権のない中央執行委員会と右問題について労使懇談会を開き、被申請人浜村等一部中央執行委員から会社に対する協力の約をえ、(a)六月三〇日、右問題に関する交渉の際会社が「時差出勤しないと会社がつぶれたらどうする」といい京工支部が「一三億の資本金を持つ会社が今回の時差出勤を断わられたからといつてつぶれるとは考えられない」と答え、更に、会社が「それでもつぶれたらどうするか」と問い組合が「会社がつぶれれば我々の働く職場がなくなるのだから仕方がない」と答えたことから、「京工支部役員が資本主義否定論に終始し、会社をつぶしてもよい旨宣言した」との虚偽の記事を総務課ニュースに記載し、また会社の意を体した被申請人浜村は他の中央執行委員に無断で「つどいニュース」に「最近当組合に組合の基本方針と全く考を異にする一部の過激な破壊主義者が善良なる組合員を煽動し組合の統一を乱すような行動をとつている」等の記事を書いて組合員の混乱をあおり、(b)加うるに同人らは昭和三八年七月九日の同年度中央執行委員候補第一次選挙の第一回投票日に各職場に京工有志一同という名で「京工支部役員には共産党がいる。これらの指導者にはまかせられない」等の宣伝ビラを配り、一〇日には生活防衛同志会の名で、早朝門前で日雇を使つて、京工支部役員と共産主義思想を攻撃するビラを配布し、職制に職場で弱い組合員の選挙投票を看視させたりした上、更に一三日の第二次選挙直前には本社有志の名で、共産党と京工支部役員を結びつけた中傷誹謗のビラを配布した(c)これに対し京工支部は選挙の終つた七月一九日に初めて「組合員の皆さんへ」と題するビラを配布して右一連の会社側の中傷誹謗ビラに反論したのであるが、(ニ)しかるに中央執行委員候補第二次選挙の結果は会社の意図に反し、候補者二一名中京工支部役員九名、及びその同調者四名計一三名がいずれも高位当選し殊に申請人佐藤勝夫は一位で当選した。

(3)  ところで、七月二八日の臨時代議員大会において、議題につきほぼ討議がつくされ承認を得る段階になつたとき、突然、本社選出の石渡代議員が「京都工場支部には共産党員が多く、彼らは共産党の指令で動いているから我々は一諸にやつて行けない。だから私はやめる。」と発言し、同時に代議員五二名中二八名が、一斉に退場したので同大会は流会に終つた。

(4)  そして流会後

(イ) 右二八名は直ちに全員投票による組合解散その手続及び該解散後の新労働組合の結成について協議し、

(ロ) 申請人等は熱心に大会再開を訴えたにもかかわらず、

(ハ) 大会議長団及び被申請人浜村等の一部中央執行委員は、全員投票による組合解散を考えるのみで大会再開の意思は全くなく、前記退場代議員等が中心になつて全員投票を要請する署名集めが行われた。

(5)  こうして

(イ) 昭和三八年八月三日、「組合員の五分の一以上の連名による要求があつた場合、全員投票を実施する」旨を定めた規約第五四条第三号に基き、―被申請人組合の解散を議題とする組合員全員投票を要請する旨の―東京工場支部外四カ所の支部所属組合員四九九名の署名が、被申請人組合の代議員大会議長島田治利宛に提出された。

(ロ) 右島田は、「組合に関する一切の事項に就て全員投票は凡ゆる決議に優先する。」旨を定めた規約第五二条に基き、全組合員に対し、全員投票で組合解散を決するべく、同年八月一三日から三日間、第一工業製薬株式会社本社外七カ所に於いて全員投票を実施せしめた。

(ハ) そして、その開票の結果は、投票総数一〇二八票、解散賛成七二八票、反対二五四票、白紙三〇票、無効一六票であつた。

(ニ) 右島田は開票結果が「全員投票は組合員数の三分の二以上の有效投票数により成立し、組合員数の二分の一以上の賛否により之を決する」と定めた規約第五六条の要件を充足するものと認定し、被申請人組合の解散を宣告した。そして規約第六四条により中央執行委員会役員が清算人に、被申請人浜村保は代表清算人に就任し、被申請人組合の財産の一部を処分し組合事務所を閉鎖し申請人等の組合事務所への立入禁止を要求する等、清算手続に着手するに至つた。

二、本件解散決議の無効

前記組合員全員投票による組合解散は、次の理由で無効である。

(一)  本件解散決議は、強行規定である労働組合法(以下労組法と略称する)第一〇条第二号に違反して無効である。

すなわち、労働組合の本質及び組合解散の重要性から見て労組法第一〇条第二号は強行規定というべく、従つてこれと異る規定を組合規約に定めてもその定めによつて有効な解散はなし得ないわけであり、なるほど本件全員投票が同号の「総会の決議」に該当するか否かについての疑義は存するけれども、そもそも本件全員投票の結果は、総組合員一一三三名の四分の三以下の解散賛成票しか得ていないから、既にその点だけで、別に全員投票が「総会の決議」に当るか否かを問うまでもなく、右投票による解散は労組法第一〇条第二号に違反し無効である。

(二)  そうでないとしても本件解散決議は、規約第三八条第五号、第六三条第二号に違反し無効である。

(1)  規約第三五条第三八条第四号及び第六三条第二号からすると、組合の解散は、その重大性からして、組合の最高議決機関である代議員大会の専決事項とされ、かつ同大会の四分の三以上の支持ある場合に決議が成立するものとされているといわなければならない。

(2)  なるほど、規約第五二条は「組合に関する一切の事項に就て全員投票は凡ゆる決議に優先する」と規定するが、この規定は、右の代議員大会の解散についての専権を否定するものではない。けだし、全員投票とは、もともと、代議員大会の決議の効力を阻止するもの、すなわち―最高決議機関たる代議員大会のみで決しうる問題のうち、組合員の利益に重要な影響を与え、且つ組合員の意見が対立する問題について―代議員大会の決議と組合員の総意とのギャップのあるべきことを予想しそのギャップを是正し組合民主制を確保するために設けられたもので、代議員大会の決議の前後において当該問題の結論について組合員に賛否を問うのみの制度に過ぎないからである。

(3)  ところで本件解散は全員投票により行われ、代議員大会の議決を経ていないから、規約第三八条第四号及び第六三条第二号に違反し、無効である。

第二 仮処分の必要性

一、本件組合解散の無効について本案判決の確定をまつとすると、

1  前記のとおり、被申請人組合は本件解散を前提に清算人を選任し、清算組合として清算事務を開始しているから、

(1)  申請人らはさしあたつて、清算組合としてないし清算事務として右清算人が、組合所有の組合会館内の各部屋の使用を制限し、事務室、書庫に施錠しまた被申請人浜村が組合預金通帳、金庫、組合印鑑、不動産書類等を保管していることから、更にまた同じく清算事務の一環として組合書記の解雇がなされていることから、右会館内の部屋、諸設備及び組合の帳簿書類、書籍通帳類等の使用ができないで組合活動に支障を生じているばかりでなく、

(2)  時の推移とともに当然清算事務として組合財産は処分されることになるべく、そうなると申請人らの組合活動及び組合員たる地位は不安定なものにならざるを得ない。

2  そして被申請人組合が解散したままであれば、

(1)  今後

(イ) 被申請人組合と会社との間に労働協約が成立する余地なく、従つて申請人等は、協約に基く諸権利を享受し得ないこととなり、

(ロ) 現に昭和三八年一月一九日会社は申請人等に対し書面をもつて、本件組合解散を理由に組合との労働協約並びに付属協約の失効を通知して来ており、既に現行の労働協約に基く諸権利の行使すら申請人らはなし得ない状態に追いこまれており、

(2)  しかも他面、労働者の地位が事実上の生活を基盤とするものであるところから、組合団結は事実上破壊され―即ち現段階において本件解散無効が確定されるならば被申請人組合の団結がそのまま保持されるところ、そうでないとすれば多数組合員は不本意ながら別に使用者に対抗する団結体を作るか、或いは別のそのような団結体に加入するのやむなきに立ち至り―ひいて組合の団結の威信、対外的信用、名誉等も失墜せざるを得ない。

二、換言すれば、本件解散無効の本案判決をまつとすると、申請人らは、財産上、精神上また公益上も、償うことを得ない損害を蒙むる虞があり、その危険は今にしてこれを除去しなければ回復すべからざるものである」

と述べた。

疏明<省略>

被申請人等訴訟代理人は、

「申請人等の本件仮処分申請を却下する」との判決を求め、申請の理由に対する答弁並びに主張として、

「一、申請の理由第一、について

被申請人組合が申請人主張のような構成の労働組合であり、被申請人浜村が同組合の中央執行委員会委員長申請人らがいずれも同組合の組合員であること。昭和三八年八月三日、同組合組合員四九九名から、組合の解散を議題とする、規約第五四条第三号に基く全員投票の要請が代議員大会議長島田治利宛提出されたこと。島田治利が組合規約第五二条に基き、昭和三八年八月一三日から三日間会社本社外七カ所に於いて組合解散の是非に関する全員投票を実施し、同月一七日開票が行われ、その結果は申請人等主張の票数であつたこと。そこで前記島田は規約第五六条を充足すると認定し、組合の解散を宣言したこと。そして、規約第六四条により中央執行委員会役員が清算人に、被申請人浜村は代表清算人に各就任したこと。以上の事実はこれを認める。

二、申請の理由第一、二、について

1  労組法第一〇条第二号は、組合規約に定めのない場合の補充規定で任意規定と解すべきである。

(1)  申請人等は労組法第一〇条第二号を強行法規であるとしながら、規約第六三条二号がその労組法第一〇条第二号の要件を充足していると主張するが、この主張はそれ自体矛盾撞着をまぬがれない。けだし労組法第一〇条第二号が強行規定であるとすれば、

(イ) 同条項の「組合員又は構成団体の四分の三以上の多数による総会の決議」とは民法第六九条の「総社員ノ四分ノ三以上ノ承諾」の規定と対比して当然「総組合員又は総構成団体の四分の三以上の多数による総会の決議」と解釈すべきであるところ、組合規約第六三条第二号は「代議員大会(総代議員の三分の二以上の出席により成立する―規約第四三条第一号)で出席代議員(或は賛否の有効議決をなした代議員)の四分の三以上の支持を得れば足る」としており従つて総代議員の三分の二の四分の三即ち二分の一以上の支持があればよいことまでも定めているわけであり、(ロ)のみならず、その「代議員大会の決議」はもちろん「総会の決議」でない―このような「総会の決議」は総組合員を一堂に集めることができない限り事実上不可能である――からである。

(2)  そして

任意規定たる労組法第一〇条第二号と規約第六三条第二号ないし全員投票による解散との関係は次のように理解せられる。

すなわち、被申請人組合においては、組合支部が遠隔地に散在し、しかも組合員数多数のため、組合員総会を開催することが著しく困難であるので、労組法第一〇条第一号に則り―もちろん、労働組合はこの条項によつて自主的に解散の方法や定足数を定めうる―、規約第六三条第二号に代議員大会の四分の三以上の支持ある場合を解散理由とするとともに、規約第五二条で全員投票に総会に代る最高の意思決定機関としての地位を与え、これにおいても組合解散が行い得ることとしたのである。

2  ところで、本件全員投票は

(1)  そもそも全員投票が、あらゆる決議に優先する効力(規約第五二条)いわゆるオールマィテイーの力を持つものであることからして、被申請人組合の解散を決定したものといわなければならない。

ちなみに、規約は昭和三二年一月二七日の代議員大会で改正され、その際全員投票に関する定めは、改正前附則の中に存在する丈けでその実施方法、成立要件等について全く規定されていなかつたのを、新しく本文に一章を設けてその成立要件、実施方法等を規定したのであつて、これは組合のより民主的な運営のため全員投票の制度を充分活用できるようにしたのであるとともに、従前代議員大会に与えられていた最高議決機関としての地位を代議員大会からうばつて全員投票制に与えたのである。

(2)  仮りにそうでなく組合は規約第五二条と第六三条によつて代議員大会で出席代議員の四分の三以上の決議によつて解散するにしても、右規定は通常の場合に妥当するものにすぎず、特段の事情ある場合即ち、代議員大会を招集して大会を成立させる見込が全然立たず従つて代議員の総意をきくことができない異常事態に立ち至つた場合には、全員投票によつて組合は解散を決議し得るものと解すべきである。けだし右のような特別の事情のある場合代議員大会による決議は望みうべからざるところ、全員投票は組合員の総意を確認する民主的な制度であり、従つて全員投票の解散の決議権を認めるのは事理の当然といわなければならないからである。そして本件においては以下のような代議員大会を招集して大会を成立させる見込の全然ない特段の事情が存したのであるから、結局本件解散は有効である。

右特段の事情は次のとおりである。

(イ) 被申請人組合では昭和三八年七月二八日第三六回臨時代議員大会が開催されたが、一般経過報告の質疑討論の過程に於いて、―京都工場時差出勤の問題、原水爆禁止並びにポラリス潜水艦寄港反対運動及び夏期一時金斗争終結時の京都工場常任委員会の言動等―の論点を中心に一部極左過激派と大多数穏健良識派との対立論争となり、特定政党の指示、指令に基いて党勢拡張の為に組合運動を利用し且つ労使関係を一元的な絶対的対立関係と考える教条主義的な階級斗争至上主義を組合運動の中に生のまま持ち込もうとする一部極左過激派の言動に大多数代議員が憤慨して大会を退場し大会は流会になつた。このような事態に至つたのは過去数年に遡る極左過激派に属する一部組合員と穏健良識派に属する大多数の組合員との間の根深い対立に由来するものである。

(ロ) 大会流会直後中央執行委員会及び議長団は事態収拾の為種々討議を重ね、同年八月二日「つどいニュース」及び掲示をもつて議長声明として中央執行委員の見解を表明し、組合機能の回復と組織の空白からの脱却について全組合員にアピールした。しかしながら退場代議員並びに組合員有志は組合の危機と窮状を訴え真の自主的民主的な組合と真の団結を築いて行く為には猛省を促す意味においても敢然と一部の極左破壊主義者と袂を分つ以外に道はないと考え、組合解散の為の全員投票を呼びかけ、その結果、八月三日午後六時頃組合員四九九名からの全員投票要請が代議員大会議長島田治利に提出された。

(ハ) 一方右島田は大会流会後事態収拾に苦慮して来たが、八月二日代議員大会再開準備の為の大会運営委員会を同月五日に開催すべく運営委員を招集した。しかるに八月五日に集つた運営委員は僅か二名に過ぎず委員会は不成立に終つた。けれども島田はなお代議員大会の再開をあきらめず、八月一〇日再度運営委員会を招集し、組合各支部の代議員の出席見込をたずねたところ、大半の支部からは代議員の出席見込がたたず、仮りに大会を再開しても総代議員の三分の二以上の出席による大会成立の見込が全く立たないことが判明した。従つて代議員大会で既に任期の過ぎた役員改選はもとより解散の決議案を議題にかけることは不可能となり組合は事実上両派に分裂したままその機能を喪失してしまつた。

(ニ) そうしてこうした折柄、組合員四九九名からの解散を議題とする全員投票の要請がなされた。

三、申請の理由第二について

申請人らの主張する仮処分の必要性はこれを争う。

なお

(1) 本件解散により被申請人組合組合員である申請人らが財産上の損害をうけることもなければまたそのような損害をうけるおそれもない。けだし清算手続としては清算人によつて財産の管理処分がなされるわけであるが、被申請人組合はその財産として会館と銀行預金什器備品若干が存するに過ぎず、しかるところ右不動産の登記名儀人は申請人田中克人でありまた右銀行預金は申請人田中と被申請人浜村の連名でなければ銀行がその引出しに応じない現状にあつていずれも被申請人組合の清算換価処分し得ないものであるから、結局のところ事実上被申請人組合の財産につき清算手続が進行することはないからである。

(2) また仮に申請人らが会社に対する関係でその主張のような不利益をこうむるにしても、申請人らは会社に対してその救済方法を講ずればよいもの、すなわちそのような申請人らの損害ないし危険が本件解散に由来しているにしても直接にはなんら被申請人の関知しないところであつて、申請人らが申請人に対し解散の効力停止の仮処分を得たところで、それだけで直ちに右の対会社関係の危険や損害が排除されるものではないことが明らかであるから、いまだもつて本件仮処分の必要性とはなしがたい」と述べた。疏明<省略>

理由

一、当事者間に争のない事実

被申請人組合が合成洗剤の製造販売を業とする第一工業製薬株式会社の従業員を以つて構成された労働組合であり、被申請人浜村が被申請人組合の中央執行委員会の委員長、申請人等がいずれも被申請人組合の組合員であること。昭和三八年八月三日被申請人組合(当時の組合員は一一三三名)の東京工場支部外五カ所の支部所属組合員四九九名から規約第五四条第二号に基き被申請人組合の解散を議題とする全員投票の要請が被申請人組合代議員大会議長島田治利宛提出されたこと。島田治利は規約第五二条に基き、昭和三八年八月一三日から三日間、第一工業製薬株式会社本社外七カ所に於いて被申請人組合解散の是非を問う全員投票を実施し同月一七日開票を行つたが、その結果は、投票総数一〇二八票、解散賛成七二八票、反対二五四票、白紙三〇票、無効一六票であつたこと。右島田は、右投票結果が規約第五六条を充足すると判断して被申請人組合の解散を宣言したこと。そして規約第六四条により中央執行委員会役員が清算人に、被申請人浜村が代表清算人に各就任したこと。以上の事実は当事者間に争がない。

二、本件全員投票による解散の効力

(一)  労組法第一〇条第二号の性質

当裁判所は労組法第一〇条第二号は任意法規であると解する。もつとも(1)民法上の社団等になぞらえ右法条を任意規定とするのは当を得たものではない。けだし、労働者の団結は資本の側に対し労働者が従属的な地位にあるという社会的現実を実質的に対等のものとする結合で、抽象的人格の自由意思を媒介とする民法上の社団のような結合関係とはその本質を異にし、従つて同じく解散といつても、労働組合にあつては、―団結が目的であり組合員の自由意思はこれに拘束せられる―という建前の上のことであるのに対し、民法上の社団などにあつては、―その結合が目的達成のための手段であり、構成員はその結合を破ることがもともと自由である―という全く異つた前提の上に立つてなされるものであるからである。

(2) ところで、(イ)右法条の「労働組合は組合員の四分の三以上の多数による決議を以て解散する」旨定めているうち一応「四分の三以上の多数による」という点を除外してみると、同条項は労働組合が総会の決議により解散しうるとしているわけであり、しかるところ、総会の決議なるものは、別に決議ということ自体に意味があるのではなくて総組合員の意思を止揚してこれを組合の意思とすれば本来の使命を果すものであるから、結局右法条は組合員の総意によつて労働組合が解散しうるとしているとみて差支えない。(ロ)さて、(a)労働者の団結は憲法の保障する権利であり、憲法がこれを権利として保障する所以のものは労働者を使用者と対等ならしめるという社会的目的によるのであり、労組法はこの憲法上の労働権を基底として展開されているものであるからして、法は労働組合の存続を希求しているものというべく、従つて右法条の「四分の三以上の多数」は強行せらるべきものであると考えられないでない。(b)しかしながら、労働組合の団結というのはむしろ質的なものに重点が置かるべきであつて、(なるほど数は質に転化するけれども)、単なる組合員の数だけがその鍵点をなすものではないのであり、例えば解散につき組合員の四分の三以上の多数による決議を得たからといつてそのことだけで直々に社会的目的の見地から労働組合の団結を保持せしめなくてよいと限らないときもあれば、他方同様の決議がなされないため労働組合が存続しても組合という名だけを存して組合員の社会的地位の向上に貢献し得ず、にもかかわず依然として組合員は当該組合の統制に服さねばならない事態も生じるのであつて、要するに組合の団結を実質的にとらえると、四分の三以上の多数の決議が、その組合の実質的な団結を必ず保障するという論理的必然性はこれを見出しがたいことになる。そして、組合の態様も使用者の態様もそれぞれ様々であり従つて又この両者の関係も当該各場合において極めて区々たるものであるうえ、右両者の関係はなるほど社会的なものではあるけれども直ちに公的利益につながるものではないのであるから、旦労働組合が成立した以上具体的状況下における実質的団結についてはむしろ組合員の総意によつてこれを決せしむるのが適切であり、敢て法がその総意に干渉することは形式的団結に役立つだけのことに過ぎないといわなければならない。換言すると、同じく対使用者の団結であるという見地の下に組合の存続は願わしいとしながら、少くとも解散については組合員の四分の三以上の決議を経ることを要するとすることと組合員の総意によりいかなる方法でこれを決するかを決定することができるとすることとは、前者が形式を重んずるのに対し後者は実質をとるわけであり、たとえ団結権が憲法上の権利であり労組法がこれをうけて労働組合の存続を希求しているにせよ、それは労働者の実質的地位の向上をめざすからに外ならないのであつて、あくまでも実質的配慮が先行しているというべきであるから、なるほど解散につき前記法条所定のとおり組合員の四分の三以上による決議を経ることは理想にちがいないけれども、だからといつて同法条が組合員においてその総意を以て(例えばその組合規約を以て)これと異る定めをしたときにそれを絶対的に排除するものとはなしがたく、結局のところ右法条は当該労働組合において組合員の総意による解散についての定めのない場合これを補充する任意規定であると解するのを相当とする。

(二)  全員投票による解散の可否

1  被申請人組合規約所定の全員投票の性質

成立に争のない疎甲第一号証の一、二及び疎乙第二号証、証人田村洋二の証言と前記当事者間に争のない事実とを綜合すると、

被申請人組合においては、その規約をもつて代議員大会を常設の最高議決機関とし、全員投票が一切の事項についてあらゆる決議に優先すると定めていること。もつとも全員投票は組合員の五分の一以上の連名による要求があつたときなど一定の要件を具備したときに実施せられるものであるとともに、組合員の三分の二以上の有効投票により成立しその二分の一以上の賛否によつて決せられること。右のような規約所定の全員投票は、昭和二二年一二月二七日の代議員大会で規約の一部が改正され、従前議決機関が最高議決機関としての代議員大会と中間議決機関としての中央委員会の二本建であつたのを代議員大会一本に統一し、従前代議員の選出が組合員一五名に一名の割合であつたのを二〇名に一名の割合に改めたとき、同時に従来附則第六〇条に「組合に関する一切の事項について全員投票はあらゆる決議に優先する」と定められていたに過ぎなかつた全員投票制度を新しく本文中に一章をもうけて規定し実施の方法等について四箇条にわたり詳細な規定としたものであること。規約には労組法が規約の記載事項としている総会についての定めが存しないこと。そして被申請人組合は会社の本社及び多数の諸所に散在する営業所、工場にその支部が存する関係から事実上総会を開催することは著しく困難であるというよりもむしろほとんど不可能であること。以上の各事実を認めることができる。

してみると、(イ)被申請人組合にあつては、多数の散在する営業所や工場支部の所属組合員を招集して総会を開催することが事実上不可能に近いところから、これに代る意思決定機関として代議員大会を設けたのであり、ただ代議員大会の決する個々の問題はこれを総会の決議を以てするときと異り必ずしも組合員多数の意思が反映するとは限らないので、この場合にそなえ民主的に組合員全員の意思を尊重する趣旨で全員投票の制度をおいたものであるところ、(ロ)この全員投票は、(a)一切の事項について従つて代議員大会の議決の対象たる事項についてもなされるとともに、あらゆる決議従つて代議員大会の決議にも優先するものではあるが、(b)しかしながら、かなり厳格で煩さな要件の下に臨時に行われるものであるばかりでなく、投票というそれ自体の性質上通常の合議体の決議と異り―議題の趣旨説明、投票方法についてのそれをも含めた討議等の経過を経ることなく―機械的に一律に結論たる意思表示を形成するものであるから、(c)統一的組織体―特に個々の組合員の自由意思を超えて独自の統一ある目的と意思とを持ち又持つべきことが要請される組織体としての労働組合―の意思形成の機関としての機能を十分に果すに足るものでないことが明かであり、(ハ)従つて規約が「全員投票はあらゆる決議に優先する」としているのは、全員投票のほかに組合の決議を前提し、全員投票によつて事前にその成立を阻止し或いは事後にその効力を否定することができることを定め、これによつて前記のとおり組合員の多数による組合の決議に対する抑制作用を営ましめることとしたものであり、全員投票を独自に組合の意思を創設的に成立せしめるものとして定めたものではないと見るべきで、(ニ)なるほど、組合員全員による投票に組合の決議とかかわりなく独自に組合意思を決定する機能を認めることは可能であろうけれども、規約はそのような全員投票を予想しては居らず従つてそのような全員投票は規約の定めによつて規制せられるものではないといわなければならない。

2  本件全員投票による解散

(1) 本件全員投票が、被申請人組合の議決機関の解散決議を前提としその成立の阻止ないしは効力の否定のためなされたものであることを認めるに足る疎明はなく、却つて前記当事者間に争のない事実からすると、右全員投票は組合としての決議と同じ組合解散を決定したものであることをうかがうにかたくない。そして右全員投票が規約の定めるところに従つて実施されかつ規約所定の成立並びに有効投票数を得て解散を決定したものであることは前記のとおり当事者間に争のないところである。

(2) してみると、本件全員投票は規約の定めている全員投票ではなく、にもかかわらず規約の定めに従つて実施せられたものであるが、単に規約の定めに従つて実施せられたからといつて規約の規制の対象となつていないものが規約の定めどおりの効力を生ずることのないのは当然のことであるから、本件全員投票による解散の決定はその限りでは無効のものといわなければならない。

仮に代議員大会が機能を停止していたとか或いはその開催をなし得なかつたとかその他全員投票によらなければ組合の意思形成が困難な事情がある場合には、規約の予想していない創設的な組合意思決定としての全員投票が許されるにしても、それは本来独自では組合意思たり得ない全員投票による決定が如何なる場合に組合意思として肯認せられるかというだけのことに過ぎず別に右説示とはかかわりがない。

(3) なお、右認定のとおりの本件全員投票につき、このような規約の予想していない全員投票によつて組合意思が創設的に形成される場合があり得るとの前提に立ち―ただし、上記のとおり規約には組合の代議員大会が常設の議決機関として定められているのであるから、それにもかかわらずこのような場合があるとすれば、それは如何なる場合であるかの問題を生ずるけれども、さしあたりこの点は別とする―その前提の下での手続上の要件だけを考察してみるのに、

前記疎甲第一号証の一に徴すると、規約が、代議員大会は通常構成員の三分の二以上に当る出席代議員の過半数によつて決議を行い、解散の場合には構成員の三分の二以上に当る出席代議員の四分の三以上の支持を必要とすると定めていることを認めることができ、

右認定事実と前記各認定事実とに照らすと、

本件全員投票は組合員全員の投票を以て組合の意思すなわち組合の決議と同内容のものを形成するのであり、従つて(イ)その手続における形式面―換言すると全員による投票ということだけ―からすると、組合の最高議決機関である代議員大会の決議に優先する決定が規約所定の全員投票によつてなされうることから推及して、本件全員投票に規約の定めの準用ありとしてなんら差支えなく、従つて組合員の五分の一以上の連名による要求があつたときにこれを実施し組合員数の三分の二以上の有効投票によつて成立するものとすることができるといわなければならず、(ロ)他面賛否の決定の要件―としては、(a)組合の最高議決機関である代議員大会の決議に代る効力を有するものであるのにかんがみてその決議方式に準拠することを得べく、しかるところ規約は代議員大会の決議は通常の場合三分の二以上に当る出席代議員の過半数によつて、解散についてはその三分の二以上に当る出席代議員の四分の三以上によつて成立すると定めており、なるほど代議員大会は比例代表制による代議員で構成されるから右過半数とか四分の三以上とかいうのが組合員数としてもそのままあてはまるかどうか疑問があるけれども、少くとも解散については決議の成立要件が通常の場合よりも加重されていることが明かであり、(b)そして右代議員大会はもともと総会に代る制度であるばかりでなく、規約はその性質上すべてのことを網羅して規定しうるものでなく従つてその不備は法によつて補充せられるものとしているわけであるところ、労組法第一〇条第二号は組合は総会が組合員の四分の三以上を以て決議するとき解散する旨を定めており、同法条は前記のとおり補充規定であるから、(c)一面では代議員大会の要件加重の精神からして規約所定の全員投票が過半数を以てその賛否を決するとの定めをそのまま準用することのできないのは勿論のこと、他面では代議員大会がその定めを欠くにしても一応規約所定の全員投票と対応して四分の三以上の数を成立要件とし、かつ又補充規定たる労組法の右法条が組合員数の四分の三以上の数を成立要件としているところからして、結局のところ被申請人組合は本件全員投票によつては組合員数の四分の三以上の賛否を以て始めて解散を決しうる(もちろん右法条が補充規定であるところから、本件全員投票が右のような代議員大会の解散決議についての要件加重の線にそつてそれ自らで解散についての定足数を右法条所定のものと異つて定める―論理的には解散決議に先行するものとして先ず該定足数が全員投票によつて定めらるべきであるから、仮に全員投票が一挙に行われるにしても、手続的に右論理性が貫かなければならないこともちろんである―ことは許されるけれども)と解するのが相当である。

そうだとすると、本件全員投票による解散が有効投票数の過半数によつて決定せられ四分の三以上によつて決定せられたものではないことを前記当事者間に争のない事実から認めることができるから、本件全員投票による解散はその点でも無効のものといわなければならない。

三、必要性の存否

(一)  労働組合組合員の当該組合に対する解散決議の効力停止を求める仮処分の必要性は次のように解せられる。

すなわち、(1)労働組合が解散によつて消滅するならば、もともと労働組合は労働者たる組合員を使用者と対等の地位に置くものであるから、組合員は使用者に対し個々の労働者として従属的地位に甘んぜざるを得ないことになる。(2)なるほど、このような組合解散に由来する組合員の不利益は、直接には対使用者関係のそれであつて対組合関係のものではない。しかしながら、そもそも、組合、組合員、使用者の三者を各別に独立の人格者として、その対立からそれぞれの利益不利益を観察することには疑問がないわけではない。けだし、(3)労働組合は組合員の団結による事実行為を主軸として使用者と拮抗するところにその特色があり、この点で通常の法人が法律行為をなすことを主眼とするのと著しく相違し、従つてまた組合と組合員との関係も単なる対立関係だけにとどまるものではなく相互に即自的な包摂の一面を含むものであるからである。(4)従つて、もし組合と組合員との関係を対立的なものとして割り切つて事を処さねばならない場合―本件仮処分の如きがまさにそれに該当するが―には右のような組合と組合員との関係をも考慮しておかなければならない筋合であり、(イ)組合と組合員とが包摂関係にある限りは、組合と使用者との間の法律関係は組合員と使用者との法律関係に転化するとみてもよいけれども、(ロ)ひとたび組合と組合員とが対立しなんらの包摂関係も存しないとの前提をとると、(a)組合と使用者間で組合員に関しなんらかの定めをしても、それはあくまで組合と使用者間のことで当然には組合員と使用者間を律するいわれはないとみてよいのであるから、組合員は組合に対し組合が使用者から獲得したところを自己に与うべきことを請求する権利を有するとの構成をしなければならないのであり、(b)しかも、そのような請求権が単に抽象的に存するだけでは使用者に対する労働者たる地位に早速具体的な危険を生ずるわけであるから、そしてまた組合が使用者からうるところは組合と使用者との拮抗さえあれば常時発生し又発生しうべきものであるから、組合員としては(使用者に対してではなく)組合に対し該請求権が直ちに実現せらるべきことにつき具体的かつ緊急の利益を存するわけであり、(c)ただ使用者が事実上存在しなければ、また組合が事実上使用者に対する拮抗関係を維持していなければ―右利益が対使用者の関係に淵源するものであるが故に、かつまた組合の使用者から得るところのものを請求することについての利益であるが故に―そのような利益が認められないだけのことに過ぎず、(5)つまるところ、労働組合組合員の当該組合に対する解散決議の効力停止を求める仮処分については、使用者が事実上存すること及び当該組合が使用者に対し事実上の拮抗を維持している限り、―例えば規約が解散決議の要件を定め、当該解散決議が該要件を充足するなど当該組合が事実上の使用者に対する拮抗を法的に排除する場合などは格別、そうでなければ―原則としてその必要性を肯認することができるものと解せられる。

(二)  そこで右の見地に立つて本件仮処分の必要性の存否について考えてみるのに、

証人重田重光、同平岩松生の各証言、被申請人浜村保本人尋問の結果及び前記各認定事実によると、

(イ)  会社はその目的とする合成洗剤の製造販売業を営み、申請人らはその従業員であること。被申請人組合は会社の従業員を組合員とする労働組合、申請人らはその組合員であること。

(ロ)  昭和三八年八月一三日から一五日までの間に実施された本件全員投票により被申請人組合の解散が決定されたとして中央執行委員会役員が清算人に就任したこと。被申請人浜村は代表清算人として同年八月二八日清算人会を開催し、同会は「被申請人組合につき可及的速かな解散登記をなすこと、組合財産に属する組合会館については清算事務が一応結了してからその処分を決定するが、それまでの間申請人らから使用許可の申出があつた三部屋を除き他の部分はさしあたり閉鎖すること、銀行に預けてある特別闘争積立金は整理がつき次第各組合員に返還すること、組合書記を清算事務に従事させる(もつとも清算事務結了のあかつきはその自由意思によつて進退をきめさせる)こと」など清算事務の大綱を決議したこと。(ハ)爾来右大綱に従い清算事務が執られることになつたが申請人らの妨害などによつて事実上清算事務はほとんど進展していないこと。(ニ)被申請人組合組合員は、本件全員投票による解散を支持する一派(以下支持派と略称する)とこれに反対する一派(以下反対派と略称する)とに分れ、支持派は約九八〇名の、反対派は約一三八名の組合員を擁して、互に対立抗争していること。ただし右両派はそれぞれ主として現場から見た会社に対する利害関係を中心に相寄り(ちなみに反対派は申請人らを含め京工支部組合員を主体とするのに対し、支持派は主としてその余の職場支部組合員によつて構成される)、かつ又右利害関係の外多分に感情的要素を交えて対立していること。なお支持派の中には百余名の浮動分子を含むが、反対派の中にも従業員としての地位の不安定から脱落していくものが若干名あること。(ホ)会社は、本件全員投票後、被申請人組合との間の労働協約は同組合の解散によつて失効した旨の掲示を出して無協約状態を主張しているとともに右支持派を相手方団体としてこれと交渉をし約定を結んでいるが、なおかつ配置転換の問題にしろ一時金の問題にしろ反対派とも交渉ないし約定をなし事実上はこれを従業員の団体として取扱つていること。以上の事実を認めることができる。してみると、被申請人組合は既に右反対派と支持派とに事実上分裂し、組合の解散を支持しひいてその存続ないし活動につき消極的である支持派は数の上で(浮動分子を除いても)総組合員数の約八〇パーセントを占めているばかりでなく現在では会社と交渉を行い約定を結ぶなどある程度の結合にまで達し、しかるところ支持派と反対派とは互に抗争しているので、従つて被申請人組合の団結は極めて劣弱のものといわなければならないけれども、しかしながら本件全員投票が昭和三八年八月一三日から一五日にわたつて行われたもので、右のような組合の分裂状態もまだ日が浅くかつそれが主として職場職場によつて異る会社に対する利害関係に起因しているものであるばかりでなく、右全員投票の是非についても態度決定を留保している組合員がないでもないのであり、このような状況の下に、組合の存続を主張しその機能を従前どおり営ましめようとする反対派組合員を中核とする事実上の団結があつて、使用者たる会社もこれを無視し得ないで事実上は従業員の団体として取扱わざるを得ないでいるのであるから、被申請人組合は右のような限度においてではあるにせよ、いまだ団結体の実質を完全に失うことなく会社と事実上の拮抗を存しているものといわなければならない。なお、本件全員投票による解散につき清算事務は一応停止しているけれども、それは単に事実上そうであるにすぎないことが明かである。

従つて本件にあつては、解散の効力停止及び清算事務執行禁止につきいずれもその必要性が肯認せられる。

四、結論

よつて本件仮処分申請は、理由があるのでこれを認容し、訴訟費用について民事訴訟法第八九条第九三条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木辰行 菅浩行 川村フク子)

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